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新しい暮らしの始まった住まい  - Y邸(山口県山口市)-

追記

DEC 2012

25山本邸20121217.jpg 過日、山口の出張の帰りに、外構工事が進んでいる今年お引き渡しをしたY邸にお寄りしました。お留守のつもりで外構の具合をアシスタントと眺めていると、奥様がニコニコしながら出て来られて手招きをされました。夕刻の気ぜわしい時間帯に突然のお伺いという申し訳ない形になってしまいましたが、徐々に整備されていく外構工事と楽しく暮らされている雰囲気が伝わってきて心温まるひとときでした。先日ご主人様とはランチをご一緒する機会があって、「暖かく快適に暮らしています」と笑顔で言っていただいたので安堵していましたが、今回伺ってそれが実感出来ました。玄関ドアを開けた瞬間、ほぼ均一の暖かい室内の空気感に包まれます。室温はそれほど高く設定していないのですが、これこそが隅々まで温度ムラがない性能を持つ住まいの実力です。


行き届いたディスプレイに嬉しくなりました

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 どうぞどうぞと奥様が私たちを誘って下さいました。仕上がった時には漠然として、少し余ると思えたホビールームも、ご主人のこだわりの逸品が徐々に増え始め、それはそれはいい雰囲気です。最後の仕上げは住まい手が施すものである、という私の持論が上手く作用しました。控えめな色調の空間に施されたデコレーションがとてもマッチしていて、見ているだけで楽しくなってきます。きっとこういう事をやりたいんだろうなぁと思っていた私と、住まい手の思いが融合して、とても良い雰囲気にこちらも嬉しくなってしまいます。住まいの場合、ご入居前の完成写真があまりに充実しているものは、作り手のエゴが大きい空間かもしれません。少し間の空いた感じでスンドメしていることが、ご入居後にこのように住まい手の嗜好を豊かに受け止める余白となり、いい具合に染まってくるのです。私はいつもそういう意味において、作り手の差し出がましさをなるべく抑制したいと思っています。そのぶん住まい手とディスカッションを密にすれば、次第にオリジナルの雰囲気が醸し出されてきます。

竣工

スタイルのある暮らし、ホビールームのある住まい

 向かって左側にガレージを兼ねるホビールーム、その上の二階にゲストルーム、折れて右側一階がリビング空間、その二階がプライベート空間です。ハーレーダビットソンを愛するお若いご夫婦の、こだわりに満ちた暮らしがここで始まります。

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自然光の降り注ぐ玄関が、この住まいの起点です。

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 下の写真左は、全体規模のわりには一見素っ気なくて小さいとも思える玄関ホールを入ったところです。Y邸は住宅部とホビールームとがブーメラン型に配置されていて、まさにこの玄関ホールの辺りがその屈折点です。ストイックなほどにシンプルに見せる事で、逆に印象的に感じていただければという仕掛けです。
 壁の向こうには裏庭がありますが、あえて地窓と高窓のみとしてアイレベルを閉じるようにしました。地面にグランドカバーが植えられれば、そのグリーンだけ視線に取り込み、隣家や外部からの視線を気にしないで良いようにとの工夫です。ホール上部からの自然光が、全体を明るくしていて、昼間は照明器具は必要ありません。右手の壁に横長のニッチを設けて少し明かりを灯しています。ここにはミニカーなどのコレクションが似つかわしいかもしれません。

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 写真右は、ホール側から玄関ドアを見たの見返りの状態です。向かって左側に靴を履いたまま入り込める家族用のシュークロークの入り口、右手にはホビールームへの入り口のドアがあります。玄関ポーチからフローリングへの上がり框の段差はいつものように15センチ、これが毎日の靴を脱ぎ履きして切り替える動作に負担をかけない段差です。
 玄関ホールは扉で仕切る事なくこのままリビングまで続いているのですが、鍵型に動線を曲げているために相互の視線は気になりません。そんな事をしては冬寒くて...と言うお話をよく聞きますが、室内の温度は何処にいてもほぼ一定です。むしろ細かく仕切らない方が環境は整うのです。弊社の設計ではお客様が玄関に一度入られた時、冬の暖かさ、夏の涼しさを体験されて、いつも感激されます。

階段を昇りきった、二階のホール空間には書架を...

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ホビールームのある暮らしを象徴する螺旋階段

 ホビールームとリビングなどの生活空間は、ブーメラン型に折れ曲がってつながっていますので、それをつなぐ部分に、平面上、三角形の空間が生まれます。一般住宅では使いづらい三角形の空間、せっかくなら美しく吹き抜けに仕立てようと思い立ち、螺旋階段を仕込みました。寝室やゲストルームがある上階から、ハーレーが2台横たわるホビールームへこの階段を使って下りてきます。住まい手と私が共通に描いた夢のプランです。螺旋という移動行動は、心理的にも興奮を覚えるそうです。地下室に降りる感覚、ゴチックの教会の尖塔を上る感覚、そういう感覚です。ホビールームにはうってつけの象徴的な空間となりました。

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 三角形の天井は、OSBのサンダー掛けを染色し、中心から切り分けて張っています。白い壁とのコントラストが美しく仕上がりました。

家事動線を考え抜いたキッチン周り

 今回のキッチンは、長身なお二人のために、かなり高めのシンク設定で全体をまとめています。シンク前の立ち上がりも少し高め。カウンターとして使用できる高さとしつつ、リビングと一体感を持ちながらシンク周りへの視線を完全に切ることが出来ています。リビング側からは、カップボードとして見えるだけなのです。
 シンクとバック棚との間はちょうど廊下のようになり、キッチンの写真の右端には向こう側が続いて見えています。脱衣、洗面、トイレ、PCコーナー(写真右)、廊下をぐるりと回れます。家事動線の短縮と接客時など様々なシチュエーションに対応出来る間取りとなっているのです。シンク前に立てば、リビングダイニングが一望出来ますし、ここもある意味、奥様のコックピットとして機能する場所です。

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奥様のアイデアが形に... 階段のニッチ(飾り棚)

 階段の工事が進んでいく最中に、現場で奥様からポケットのようなニッチが壁に彫り込めないかというお話がありました。アドリブでやりましょうというお話になって、それからが大変。木造住宅の場合、柱、間柱やボードの下地が規則的に入っていて、ニッチをあたかもランダムに開けたように見せるためには、周到な計算が必要なのです。しかしお客様がずっと住み続ける住まいだから、何かしらアイデアが活かされるという事は長年の愛着につながります。こういう部分はなんとか住まい手のご希望を実現して差し上げたいと思います。何度かスケッチを起こし、最終的に矩形の3つの穴をバランスよく、あたかもランダムに開けたように見せることが出来ました。奥様も満足気です。

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 階段の手すりはフラットバーで軽快に、2階の手すり壁は格子ではなく腰壁に笠木という構成で設えました。笠木の上には横桟が一本走っています。ご夫妻はどちらも長身だから、手すりが低いと怖いのだそうです。写真のような華奢な横桟の手すりは普通ならぐらつきますが、この棟梁の仕事ではその心配がありません。まるで鋳鉄のようなしっかり感のある手すりに仕上がりました。木で仕上げたいけれども、標準的な太さではごつくなりすぎて野暮ったい。棟梁たちの腕が、その問題を解決してくれることとなったのです。

主寝室のウッドバルコニーからの景色

 主寝室は、独立したウッドバルコニーを持つ閉ざされた空間となっています。南面のウッドバルコニーは深い庇に守られて、夏の直射日光は室内には入りませんが、一度バルコニーに出れば身近に田園風景が広がり、遠景に高い建物が見えています。計らずも、遠くに見える背の高いマンションには住まい手のご兄弟が住まわれていて、相互にライトで連絡が取れるかもなどという面白い話題も。とにかく絶景です。毎朝をこのバルコニーに出ることからはじめていただければと、周辺の景色に合わせて絶景の方向にバルコニーと窓を配置していましたが、見事にそれが現実に。ご夫婦のベース空間として、ここから一日が始まるのです。

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ガレージ前の回廊には、オリジナルの明かりが灯ります

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 ホビールームの前の回廊に取り付ける照明器具、既製品ではなかなかしっくりくるものがありません。そこで、いつものごとくオリジナルでの発案となりました。山口の優秀な技量の大工さん故に出来る事を模索し、今回は良質な柱材の端材を利用。昔、京都で修行時代に観ていた社寺の枡組のような加工を施してもらって、垂木にはめ込む八角形の台座に黒い陶器のレセップを取り付けてもらいました。クリアのシャンデリア球を想定した形なので、取り付けてみるとやはりしっくりきます。私のアイデアスケッチに、住まい手も大工さんも最初はいぶかしげでしたが、出来てみると皆さん大満足。夕刻には、回廊をやさしく照らす灯りが並んで、「お帰りなさい」とご家族を出迎えます。


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