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新しい暮らしの始まった住まい  - S邸(山口県山口市)-

オープンハウス

2012.01.28 ~ 29 

満員御礼

完成見学会が無事終了しました。終始和やかな歓談の声が絶えない良い見学会となりました。
 山口県内の物件としてはこのS邸で3棟目、これからも引き続き山口県内の物件が着々と進められています。人のご縁と言うものは不思議なもので、一棟目を建てるために福岡から高速を飛ばしていた私は、まさかこんなにも山口通いをするとは思っていませんでした。M工務店と私を惹き合わせて下さった一棟目のクライアント様にもお越しいただき、ほんとうに良かったと喜んでくださいました。山口市阿知須は、私の第二第三のベースとなりつつあります。ご来場いただいた方達、またご協力いただいた皆様に心から感謝申し上げます。





24S邸20120130_OH.jpg

竣工

January 2012

27洲村邸ファサード竣工.jpg 外観も整いました。アールの隔壁が指定のカラーに染められ、玄関ポーチのアールの階段もタイルが貼られました。
 私が日本の住宅で少しばかり貧しく感じるのは、玄関のドア周りのゆとりです。確かにコストに跳ね返りますし、建築面積をくってしまうから最低限の庇で済ませたいところではありますが、例えばコートを脱ぎ着したり、傘をたたんだりさしたりする場所のゆとりは、住まい手が暮らし始めてからずっと感じることが出来る豊かさの部分ですから、あまり惜しみたくありません。よく、私の作る住まいでは雨の日の玄関先で子どもたちが遊びます。それくらいの庇の深さや広さがあるのです。
 角切りをした土地の隅々まで使い切りたいと描いたアールが、最終的にこの住まいの顔になる仕上がりとなりました。


各所の吹き抜けで空間にリズムを!...もちろん、温度ムラの解消にも有効です。

 左上は玄関吹き抜けを2階から、右上は同所を1階から見上げたところ。
 左下が階段の吹き抜けで、階段を昇りきるとブリッジ状の通路から繋がるプレイヤードとなっていて、子どもたちの共有の遊び場です。ブリッジの逆側からは玄関側の吹き抜けも見下ろせます。玄関から声が掛かれば誰が遊びに来てくれたのか、すぐに顔を出せますね。
 右下はリビングの吹き抜け。2階の壁には、3人のお子様それぞれの個室から下を覗ける小窓がついています。

24洲村邸玄関ホール.jpg|24洲村邸玄関吹き抜け.jpg

24洲村邸階段吹き抜け.jpg|24洲村邸LD吹き抜け見上げ.jpg

朝日の入る、コーナーダイニング。

24洲村邸LD2.jpg

 今回のS邸は、奥様に明確なビジョンがおありで、的確なシーンのイメージを私に伝えてくれた事から、プラン全体にそれを実現できるコーナーを配置していく事で全体が構成されました。ダイニングキッチンに関しては「朝日が当たる側にキッチンを...」「ベンチシートをコーナーにもったダイニング」というイメージ描写から生まれました。コーナーベンチは天板を跳ね上げれば内部は収納になっています。変形のダイニングテーブルが配置され、ファミリーレストランを彷彿とするダイニングコーナーが出来上がりました。勿論、出される手料理は奥様のものだから格段にこちらが上等ですが、3人のお子様と賑やかにテーブルを囲む様は楽しいファミレスさながらかもしれません。

扉はなくとも仕切られる、キッチン周りの回遊動線

 人間というものは、器用そうで不器用、不器用そうで器用なところがあって、身体の特性から動作にはある程度の予測がつく場合が少なくありません。そこを少し考察すれば「何も建具を付けまくる事ばかりが、間仕切りではない」ということがわかってきます。「死角」とは見えない角度範囲の事ですが、私はこの死角を利用して動線計画をすることがよくあります。写真下は、この家の大動脈とも言える廊下部分です。正面の半間ほどの壁はファミリークロークの側面、右手の扉はキッチンの一部を隠す壁を兼ねたパントリーです。クローク右の通路は洗濯脱衣室へ入っていく部分であり、この脱衣室は、玄関や階段のある廊下側と、キッチン側の通路との両方からアプローチが可能です。玄関から洗面コーナー、洗濯脱衣室、浴室、ファミリークロークの裏を回ってキッチンへと、ぐるぐる回れます。家事の効率化には回遊動線が不可欠です。ここには扉はありません。プライバシー保護のために脱衣室には引き戸があり、入浴で使う場合はこの引き戸を釜錠で閉じて使いますが、日中家事に追われる時間は引き戸を全て開放すれば、グルグル回れるのです。見せたくないものは見えない。手に取るものはすぐにとれる。行けるところへはすぐ行けて、隠したい時にはすぐ隠せる。そんなパズルが住まいの使い勝手を決めていきます。

24洲村邸20120206_キッチン回遊.jpg

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 今回のキッチンは市販のパッケージものですが、前面のカウンター等の現場造作で周囲となじませています。業界では最近、対面キッチンの場合はフルフラットのアイランド型が多く、ダイニング側から始終視線に晒されている状態の提案が多いようです。グラビアで見ると大変格好は良いのですが、ものぐさな私などの想像では、そのことで逆にお料理が億劫にならないかという感じさえします。今回は折衷案とでも言うべきもので、調味棚代わりに小さなボトルが立つほどの立ち上がりを設けて、その上に木製カウンターを配膳台として配置しました。この微妙な高さが、キッチン側からは閉塞感なく、ダイニング側からは洗い物などがあっても見えない高さを確保しています。高さ奥行きが使い手にジャストフィットして、規格寸法がその場にきっちり入る場合に限っては、造作工事で周囲になじませる事をフォローしていきながら、既製のパッケージ商品をうまく利用してコストダウンを計れば良いと思います。

ご主人のための、ホビールーム

 男の願望として、小さくても住まいの中にコックピットのような自分の城を持ちたいというのは永遠のテーマと言えるかもしれません。時には子ども室に攻められ、時には奥様のクローゼットから攻められと、優先順位からはかなり劣勢ですが、今回はこれほどのホビールームがとれました。ご主人とファミリーの共通の趣味のひとつである「釣り」は、竿も長く手入れに結構な場所をとります。写真正面の扉は、自転車置き場となる外物置から直接出入りが出来るようになっていて、格好の場所でしょう。竿の手入れなどを考えると天井は高い方が良いかもと、屋根の勾配をそのまま活かした勾配天井としました。見上げるほどの高い天井から、ペンダントライトがひとつ降りてきていて、これからご主人のディスプレイを待っています。いつしか家族の趣味のもので、おもちゃ箱のようになっていくのでは...? そんな楽しい想像が湧いてくる空間です。

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天井の高低差で区切る、リビング/ダイニング

 ダイニングと続きですが、リビング側はは大きく上部が吹き抜けてます。食事をする時は余り天井が高いと落ち着かず緊張感をあおってしまうので、天井のある空間が好ましく思えるのですが、リビングは少々開放的に。下左の写真では、向かって右側の引き戸が、駐車スペースから直接室内に入れる勝手口、正面右のドアはご主人様のホビールーム、左側には和室の障子が見えています。
24洲村邸P1020020.jpg24洲村邸20120206_1808690.jpg

リビングの奥、障子の向こうは...

 障子の向こうは、この住まいで唯一の和空間である主寝室(写真下)です。ご夫妻は寝具としてお布団を選択され、そこでこの和室をどうやって他となじませるかが課題となりました。半帖畳に目せきの表をヘリなしで使い、市松の方向に琉球敷きとしました。本来の琉球畳とは別物ですが、最近は一般の方がこういうものをよくご存知で、琉球畳にと所望される場合が多いです。確かに最近の住まいでは「洋」のものとの相性もあるから、正式な和室を創るとそこだけが浮いてしまい、なかなか馴染みません。そこで本来のオーダーを少し崩して、少し自由な和空間とするのです。

24洲村邸和室.jpg

 私は幸いなことに若い時期に京都にあって、本来の和の美意識に沢山触れることがありましたが、数寄屋は「好きや」のごとく少しアレンジして緩やかなのも現代調で良いのかもしれません。ただし「本式ではありまへん」と一言付け加える事を忘れず、自由の世界を楽しんでいただいています。奥の板戸の向こうには、寝具の布団用の押し入れとウォークインクローゼットの折衷収納があります。

空間にゆとりを感じさせる階段

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 住まいの中で階段という場所は、その空間を立体的に構成する数少ない大きな要素のひとつです。「間取り」という言葉がよく使われますが、とかく平面上の「間」を陣取り合戦のように区分けして行くプランでは、何となく希薄でつまらなくなりがちです。間取りの「間」は空間の「間」と考えて、立体的に組み上げたいものです。空気の流れという意味においては、外皮(外壁・屋根)をしっかりと作りさえすれば、上下階をつなぐ階段や吹き抜けは、むしろ室内の温度差や空気質の違いを平均化してくれる役割を果たします。そういう意味もあり、私はこういった場所を大切にプランするのです。S邸の階段は、上階の子どもスペースと階下のファミリースペースをつなぐもの。暮らしが始まれば、この階段は単なる昇降スペースではなく、時には遊び場となり、時には読書ベンチとになり、時には昼寝コーナーになるかもしれません。少しゆとりのある優しい段差とこの開放感がそういう自由な使い方を連想させます。

階段を上がれば、子どもたちのスペースです。

 新居に伴い、3人のお子さんのために銘々に個室スペースを与えてあげたいというご両親のご希望を叶えるべくプランを進めましたが、余りに豊かな個室は個々に部屋に閉じこもりがちになります。個室は最低限のプライバシーと広さを確保するものとして、共有のプレイヤードに出てきてもらうという作戦にご同意をいただきました。階段の上がり端に、兄弟でテレビゲームを楽しんだりするプレイヤードを設えています。玄関の吹き抜けが左に、右手に階段の吹き抜けという、階下とも決して隔離されていないオープンスペースです。しかし、不意のお客様にも階下からはオモチャの散乱などは見えません。以前暮らされていたお住まいで、三人の男の子がゲームに興じて組んず解れつ遊んでいる様は微笑ましく、これからはそういう時間がここで始まります。

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