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新しい暮らしの始まった住まい  - W邸(山口県山口市)-

いよいよ、お引っ越し

November 2010

21慎介邸20101128_1172992.jpg いよいよ完成の運びとなったW邸。玄関のドアの鍵をご主人と愛娘のSちゃんがはじめて開ける瞬間です。今回のW邸では、エントランスからポーチにかけて、デッキで使う木材で床を仕上げました。通常タイルなどで仕上げるところを木材にして、W邸ならではの雰囲気を出そうと言う仕掛け。デッキ材は耐水性も高いので安心です。これから、Wご一家の暮らしが始まります。

P1010043.jpg コンパクトながら清潔なフォルムを目指した今回のW邸は、地元で三代に渡り住まいづくりを続けているM工務店とのコラポレーション第2弾です。
 外装材は20年来の信頼厚い樹脂モルタルの塗り壁を採用しました。単調になりがちな住まいの壁も、職人さんのコテの痕跡を止めながら、陰影を持ちながら仕上がって行くのですごく気に入っています。一見何気ない塗り壁も、分厚いものならいざしらず、薄塗り工法でしかも目地をとらずに割れにくくと言うと、そう簡単にはいかないものです。弊社ではこの材料を20年近く使っていますが、やはり他にはなかなか代替品が見つかりません。全てがプラスチックになりがちな昨今の住まいづくりの中で、やはり少しでも人の手の痕跡を残したいと言うのが趣旨でもあります。どこにもない、W邸だけにしかない風合いを作り出されました。


アプローチ

21慎介邸20101128_1172993.jpg_21慎介邸20101128_1173765.jpg住まいのアプローチで、土地の一番おくまで誘って玄関に至ると言う手法は、一般的ではないかもしれません。矩形の地型の良い土地だけに、アプローチには少しだけ変化や奥行きが欲しくて、こういうプランにしています。動線は短くと言いますが、それもT.P.O.に応じて。あえての長い動線が、雰囲気づくりや演出に一役買う事もあるのです。半外部空間的なこのエントランスは、訪れた人を何となくすんなり受け入れてしまうようです。
 左の写真、向かって左側の黒い外壁は倉庫です。アウトドア製品から季節ものまで、この倉庫の中に入れるものを考えると、右手の母屋や駐車スペースからのアクセスが良い場所にとなりました。

玄関ドアを開けると...

21慎介邸20101128_1173744.jpg 木デッキのエントランス、玄関ドアを開けても木床が続きます。内装で使っているフローリングとは樹種も違い、耐水性や耐摩耗性も格段に良いものを選択しています。いつもはテラコッタタイルなどが多いのですが、今回は足触りよく、いつもよりソフトに仕上げたかったために、こう言う選択肢となりました。ヨーロッパでは、土足が基本であるのに、足に優しい木の床のお店やホテルも少なくありません。勿論お手入れの習慣があってこその事なのでしょうが、W邸にはあのソフトな印象がしっくりだと思い、実現してみたのです。この玄関ホールに入った瞬間に、Wご一家の人柄が伝わるような、そんな玄関にしたかったのです。ドアは、いつものごとくで木製の高性能気密ドアを採用しています。


スキップ

21慎介邸20101129_1174223.jpg 世の中は、とかくバリアフリーで段差を嫌いますが、時として段差が思わぬ功を奏して雰囲気作りに一役買うことも往々にしてあるから、そう言う時はためらいなく段差をつけることにしています。
 今回のW邸では、玄関を入ってすぐの廊下の途中にこのような段差があります。玄関のレベルからすぐ右(段差の手前)には、奥様が将来ホームエステをされる空間があり、左手にはそのお客様も利用される水回りがあります。そしてこの段を上って行くと和室やリビングダイニングが広がっています。つまり、段差の手前はパブリック、段差の向こうはご家族の団らん空間と切り替わっているのです。
21慎介邸20101130_1175143.jpg キッチンだけは玄関ホールやエステルームと同じ低いレベルのままです。右の写真は先程の廊下を反対側(ダイニング側)から見たものです。中央手前に半分見えているのがダイニングの天板、左手の床が下がった部分がキッチンで、右手にリビング、その向こうに畳間が見えています。実はこのキッチンの奥の扉、エステルームへと繋がっているのです。なのでこの続きの床レベルは同じに。一方、ダイニングは座卓形式であるため、キッチンに立った時の視線の高さと、ダイニングに座った時の視線の高さが揃ってくるという恰好です。奥様はエステスームから水回り、キッチンまで同一レベルの床で家事やエステのお仕事をこなし、家族の団らんは高いほうの床レベルで展開されていくことになります。この段差は、ご家族のたってのご所望でもありました。もちろんむやみな段差は必要ありませんが、高さによって気分を切り替えるということは人間にとって十分有効であって、今回は私も段差を積極的に取り入れました。そういう切れ目としてのスキップを、むしろ楽しんでいただけるといいなと思うのです。

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やっぱりキッチンはオリジナル!

21慎介邸20101130_1175142.jpg_21慎介邸20101130_1175144.jpg今回も、福岡の工房さんのオリジナルキッチンとなりました。スキップフロアの狭間に埋め込むように設置する難しいキッチンを、製作設置していただきました。また、機器についても制約がないため、例えばガスコンベックはこのメーカー、食器洗浄機はこのメーカーとバラバラなものを組み合わせることが出来るのです。天板の高さも、奥様の身長に合わせて、ミリ単位で製作が可能です。良心的な価格で親子二人で製作から取り付けまでこなしている工房だから可能なのかもしれません。扉の面材なども内装と同じもの、塗装も現場で内装とともに仕上げることが出来ます。
 今回は奥様の所望で、シンク下に可動式のふたつのワゴンが納まりました。キャスター付きで、転がして移動可能です。

吹き抜けと階段、その造作

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 それほど大きな空間でなくても、住まいの面白さは階段、吹き抜けと言った立体的な部分にあると言ってよいと思います。間取り図を見ながらの平面認識は、割とどなたでもすぐに慣れますが、立体的な空間把握はなかなか難しいもの。
 リビングの吹き抜けから、起居動線に従うようにうねりながら階段が方向転換しながら2階へ誘います。吹き抜けから見下ろすと、その上り詰めたホールの下が、リビング続きの畳間になっているところがわかります。下から見上げるのとはまた違った風景です。こういう立体感を住まいの中に演出することは、平面の羅列だけではなかなか叶わず、常に立体検討をしながら間取りを決めていく結果であると言えます。まだ小さいお子さんがいるため、吹き抜けの廊下の手すりは目の詰まった木格子を採用しました。

21慎介邸20101203_1178861.jpg_21慎介邸20101203_1178862.jpg私が大きな縮尺で描く手書きのスケッチを忠実に具現化してくれる大工さんの技術力はいつものことながら脱帽と言わざるを得ません。
 階段の手摺も、出来てみるとやはり既製品とは雲泥の差、またオリジナルでも金属のパーツで取り付けるものよりも味わい深く、断然こちらの方が好きです。また、時間を経て古びて行く姿も想像出来て、きっと皆さんを支え、皆さんの手垢によって風格が増していくことが予想されます。
 日ごと手間を惜しむ職人さんも増えてきていますが、そういう職人さんよりも、自分の仕事に誇りを持ち、私たちと技術論で丁々発止するような職人さんと仕事をして、お互いに高めていきたいと思わないではいられません。

和魂洋才、畳の間。

P1010003.jpgあえて誤解を恐れずに言うなれば、私はリビング続きの和室と言うものをあまり好みません。どちらも意匠的な締まりがなくなりデザインと言う意味において収拾がつかなくなるからです。マンション等のプランの都合上、リビングの奥に襖で仕切られた和室をとると言うことが二室採光の規定で逃げが効くという理由だけなのです。それに消費者が慣れて、むしろそれが良いと考えてしまっていることによる弊害を感じてしまいます。
 そういう意味ではW邸はダイニングが座卓形式だし、和魂洋才と開き直った状態でのプランです。こういう時の和室は、あえて和の臭いのするものを出来るだけ遠ざけて、プレーンに仕上げることが肝要であると思います。縁なしの畳や、簡素な照明器具などがそのコンセプトを体現してくれました。

最後に、外観にまつわる秘密を少しだけ...。

21慎介邸20101128_1173753.jpg 前面道路からのファサードです。実はこう見えるために、私は棟梁に過酷なことをご依頼しました。実は前面道路と建物の外壁とは、真上から見ると微妙な角度のズレがあって、外壁に平行するバルコニーを付けてしまうと、イピツな形に見えてしまうのです。そこで両方の軸線を大切にしながら、双方を緩和するために、台形型の平面をしたウッドバルコニーと庇を作り込むことをお願いしました。大変そうで、なぜこんなことをしなければならないのかという質問が幾度となくされましたが、答えは結果としてのこのファサードです。微妙なズレは緩和されて、前面道路からまっすぐな建物に見えてきました。
 大昔から、人間は巨大な建造物を建てるにいたり、人間の目の錯覚をかなり意識して建ててきました。法隆寺やギリシャのパルテノン神殿の列柱のエンタシス(中央部の微妙なふくらみ)などはその代表的なものの一つでしょう。私たちは住まい手の要望で様々な形を創造しますが、結局は出来上がった段階ですべての責任は設計者にあるのだから、どうしても内部要因から決まってしまってうプロポーションは、何らかの形で補正しておく必要があるのです。そういう意味で、向かって右側の外壁の切り替えや、バルコニーの斜めの設置など、いたるところに微妙な補正を施しました。そして道ゆく人の前で、当たり前に見ていただけたら、それ以上の何でもないのです。

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